この「スティックリモコン」が発売されてから、早くも17年が経った。発売したのは2004年のこと。今では、2代目の商品に切り替わったが、このリモコンをトイレで見かけたら、少し注目していただきたい。なぜなら、このリモコンが付いていたとすると、そこのお宅のトイレはちょっとリッチだ。
ウォシュレット(登録商標)で言うところの上位機種。もしくは、オプションで追加費用を払って購入した場合に、設置されている筈だ。そもそも、トイレはいつ買うもので、幾らするのか? 住宅用設備という側面からも、建築に携わっていらっしゃる方でなければ、普通は馴染みは薄い。しかし、毎日お世話になる空間の機器だけに、ある程度身近な商品でもある。毎日使うが故に、こだわりを持つ方がいらっしゃるのもうなずける。
さて、この「スティックリモコン」が開発される経緯は商品企画会議の提案時にふとした会話から始まった。トイレは価格帯に幅があるのに、ウォシュレットのリモコンはどれも同じものがついていた。高級リモコンってどんなものだ?といった疑問からだった。
企画者、開発者、デザイナーが一丸となって商品性やどんな人が使うのか、選ぶのかを考え、「高い=高級」ではなく、レストルームの中で使うリモコンとして、高級感を一から考え直した。
企画したからと言って、なんでも商品化される事が無いのはどの企業も同じである。企画の確証を得るために行うヒアリングも惨敗だった。いろいろなご家庭を想定し奥様方にヒアリングしたが、結果は、ほとんどの方に受け入れられなかった。
その為、商品性を高めるコンセプトを磨き上げた。
飽きの来ないものであること。誠実なデザインである事。必要なものを見極め、それ以外の物は排除する事。など様々な項目を上げ、リモコン本体に金属を使い、重さや表面の冷たさにまでこだわったリモコンを提案した。
ヒアリングの中で、建築家やインテリアデザイナーとも話をしながら商品性を詰めた。コストを必要な部分にかけられるように、優先順位を見定めながらより良い物作りを目指した。
企画者は、機能面とコスト面で新しい事を行った。機能面では、複雑な詳細操作ボタンをすべてリモコンの背面に持っていくという考え方をした事。シンプルな見た目は、情報や機能の整理や優劣を決めたことが大きい。このリモコンの前面に詳細機能のボタンをたくさん用意するという機能が決まっていたら、シンプルなリモコンは、成立しなかっただろう。コスト的にも既存のリモコンの数倍のコストがかかる構想だったが、お客様に十分に価値を認めてもらえる可能性を商品に活かすことが出来た事で、商品の単価に転嫁することができた。
最終的に商品企画が通った背景には、目指しているものが説明できた事。高級感の定義を理解し、欲しいお客様がイメージ出来た事。が商品化の決め手になった。これなら売れるという経営層の判断力も重要なファクターだろう。
発売後は、グッドデザインはもとより、 デザイン賞やレッドドット賞を受賞している。インテリアの中で静かに存在感を表すものになって欲しいと商品づくりを行ったリモコンは、日本はもとより海外のお客様にも使っていただいている。ヒアリングを超え、コストを超え、本物をきちんと追求し、建築の中に溶け込むこの商品は、まさに企画力の賜物だ。
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